その瞳に写る頃


少しの間携帯をいじってから一階へ下りた。

リビングでは母が雑学集を読んでいた。

「おはよう」と声を掛けると同じように返ってくる。

「今日は早いね」

「いつもこれくらいだよ」

わたしが当然のように返すと、母は「はいはい」と苦笑し、雑学集へ視線を戻す。

「それ、役に立つこと書いてある? やたら分厚いけど……」

わたしは母と向かい合う場所のダイニングチェアに腰掛けながら言った。

「ううん、あんまり」

「それでも読み続けるというね」

「せっかく買ったからね」

「でもわたしじゃ、得られるものがないなら読まないな」

「さくらはなにかを得られる得られない関係なく書物に触れることを避けるでしょう」

まあねと苦笑すると、母はやれやれと言うように息を吐いた。