公園を出てからの一時間は非常に短く感じた。
高本家へ続く道と我が美澄家へ続く道が左右に伸びる小さな十字路が、わたしたちの解散を促した。
「今日はありがとう。おかげで楽しい一日だったよ」
「ああいや、全然。こちらこそありがとう」
わたしは顔の前で手をひらひらと動かした。
「そうだ。高本くん、明日ってなにか予定ある?」
わたしの問いに、彼は「いや、特に」とすぐに首を振った。
「なにかあるの?」
「ああ、いやあ……」
わたしは高本くんから目を逸らした。
こんなことを高本くんに頼むのはあれなんだけど、と小さく続ける。
「……宿題をね、一緒にやってくれないかなあと」
「俺と?」
高本くんは自身を指で示したあと、ふっと笑った。
「俺との宿題なんて捗らないよ。去年の夏休み、ひどい目に遭ったでしょう」
今度はわたしが笑う番だった。ふっと笑いをこぼす。
「あれ、わたしにはすっごい楽しい思い出なの」
高本くんは困ったように眉を上げ、肩をすくめた。
表情を戻しながら、ふうと息を吐くのがわかった。
「美澄さんのためになるなら、まあいいよ。俺としてはただ馬鹿な部分を晒している気にしかならないけど」
「いいじゃない」
「さては美澄さん、下を見て安心するタイプだね?」
「そんなことないよ。ああそうだ、今回もわたしがおじゃまする形で大丈夫? こちらから一緒に勉強しないかと言っておきながら、家がお客様を呼べるような状態じゃないの」
「ああ、家ならいつでも。あの家に来る方といえば美澄さんくらいだから」
「いつもお世話になっています」とわたしは軽く頭を下げた。
こちらこそ、と同じように返す高本くんに笑うと、彼も同じように笑った。
「……では、また」
「うん、また」
気をつけてね、と続けると、美澄さんこそと返ってきた。
ここから長いんだから、と続けた彼の声が、いつにも増して優しいものに聞こえた。



