その瞳に写る頃


「高本くんの記憶には、『も』から始まる名前の人が残りやすいんだね」

「ああ……確かに。ああ、あと『虹のふもと…』――だったかな。あれの、主人公と仲悪いのって誰だっけ?」

「あっ、高本くんも『虹のふもと…』好きなの? わたしあれ大好き。

お金持ちの男の子をめぐった女の子二人の闘いの物語――ってところだよね。すごい頑張ったのにカイトくんと一緒になれなかったミカちゃんかわいそうだったなあ……。

ああ、それはそうと。主人公のミカちゃんと仲が悪いのは、カイトくんとの将来が決められてるようなモカちゃん。やっぱり『も』なんだね」

「……ところでさ」

高本くんは小さく言った。

「美澄さんはなんでそんなにアニメに詳しいの?」

「うーん……普通に、好きだからかな。でもそんなに詳しいっていうほどでもないと思うよ。

わたしはただその物語を知ってるってだけで、声優さんとか監督さんとか、キャラクターデザインとか。そういうの全然わかんないもん」

「ふうん。でもそういうのまで把握してる人っているのかな?」

「いるよ。それもいっぱい。本当にアニメが好きな人はすごい詳しいよ」

「ふうん……。そんなに熱中できるものがあるって、なんか羨ましいなあ」

高本くんは微かに顔を上げた。

視線を前方へ戻し、かじったアメリカンドッグは表面が若干乾燥していた。

「絵は? 好きで描いてるんでしょ?」

普段より多くの水分を奪われながらアメリカンドッグを飲み込み、言った。

高本くんはわたしから目を逸らし、口元に微かな笑みを浮かべると、緑茶を少し飲んだ。