じわじわと賑わいを持ち始める空気を感じつつ、ちらちらと高本くんの絵を見た。

彼はわたしの視線に気づいているのか、何度目かに目をやった際に小さく笑い、なにも言うことはなかった。

スケッチブックに引かれるなにを描きたいのかわからない線も、すぐに黒の濃淡でチューリップ畑を作った。


薄手の長袖ティーシャツに羽織ったパーカーが不要になった頃、高本くんは「終わったよ」と声を発した。

「すごいねえ、本当に」

「嬉しいけど、どうしてそんなに美澄さんが褒めてくれるのかわからない」

高本くんは言いながらスケッチブックを閉じ、鉛筆をペンケースへ戻した。

まるで証拠を隠滅するかのような手つきでショルダーバッグへそれらをしまう。

「反対に、わたしはなんで高本くんがそんなに自分の絵に自信がないのかわからないよ」

高本くんは口元に笑みを浮かべ、そうかい、と呟いた。

ショルダーバッグを肩に掛け、軽快に立ち上がる。

「さあ、これからどうする?」

「うーん……ちなみに高本くん一人だったらどうしてる?」

「ベンチでしばらくぼうっとしたり、公園内を少し散歩したり。このまま帰ることもあるけど」

「そうなんだ……。えっ、高本くんはどうしたい?」

「いや、俺は全然どうしてもいいよ。ここに居続けるにしても帰るにしても、美澄さんに合わせる」

「そっかあ……。じゃあ……」

もう少しここにいたいかな、とわたしは続けた。