四月の週末、わたしは久しぶりに結構な距離を歩いた。

二時間ほど歩いた先の風葉公園には、大きな風車を背景に色とりどりのチューリップが咲いていた。


「すごい咲いてるね、綺麗」

「美澄さん、絶対暇になると思うんだけど」

高本くんはベンチにショルダーバッグを置きながら言った。

置いたショルダーバッグのそばに腰を下ろし、中からスケッチブックとペンケースを取り出す。

「わたし、暇つぶしの達人なんだよ?」

わたしは高本くんの隣に腰を下ろしながら言った。

「暇つぶしの達人? 俺に敵う人はいないでしょう」

高本くんは笑いながら言うとペンケースから鉛筆を取り出し、目の前を景色を眺めた。

「どこから描いていくの?」

わたしは高本くんの白いスケッチブックを覗き込んだ。

「下から。ここではチューリップから」

「へええ。見ててもいい?」

「描いてくところを?」

わたしが頷くと、高本くんは「いいよ見てなくて」と笑った。

「こんな見苦しいもの見せたらお金払わないと」

まあそんなに嫌なら見ないけどさ、とわたしは前のチューリップへ視線を移した。

君はよく自分の絵を過小評価するが、君の絵が見せた相手に金を払わねばならない程度のものならばわたしの画力はどうなるのだ、と改めて思った。