「しかしうまいね、絵。字もすごい綺麗だけど」

思わず口に出すと、高本くんは照れたように笑った。

「もう本当に勉強嫌いなんだ。頭を使うことが好きじゃない。飽きたり疲れたりしたらすぐこうやって目に入ったもの描いちゃう」

「へえ。でもいいじゃん、その特技、しようと思えば将来仕事にできるんだもん」

「絵ってこと?」

「そう。画家とかイラストレーター、デザイナーなんか最適じゃない?」

「嫌だよ。仕事にするとなると、絵を誰かに見せるってことでしょう?」

「うん」

「絶対無理だ。こんな恥ずかしいものを人様の前に晒すなんて。恥ずかしすぎて狂える」

「そんなに? 高本くん自覚してないようだけど、意味わかんないほどうまいよ、絵。今まで図工とか美術で賞取ったりしなかったの?」

「一度も。一人だけどうも敵わない人がいてね。彼は俺よりずっと忠実にものや景色を描いた」

「嘘だね。高本くんが絵で賞取れないってなったら、その学校はもう美術系の部門で世界的に評価されてるような学校だもん。いやまあそんな小中学校は知らないけど」

世の中にはいろんな人がいるんだよ、と高本くんは呟いた。

心なしか声色が暗くなった。

「まあ、俺の話はいいじゃないか。それより宿題進めないと間に合わないよ。夏休みもあと二週間だ」

「残念なことにその二週間も切ってるんだなあ」

それなら急がないといけないのはなおのことだと言う高本くんに笑い、わたしはシャーペンを握り直した。