「例えば、別の国とのハーフで、髪の毛や肌の色が住んでいる国の人と違った場合、本人がそれを気に入っていたらそれは個性になるんじゃないかな」

「なるほどねえ……」

「ところで、なんでそんな深いことをさくらが気になったの? それこそ、雪でも降るんじゃない?」

「わたしだって少なからず刺激を受けて生活してるの。そりゃあ、らしくないことを考えたりもするよ」

母は席を立ち、「はいはい」と笑いながらセンターテーブルへ本を放った。

本がテーブルから落ちたのを見届けてこちらへ目を戻す。

「今日の夜ご飯、チンジャオロースとホイコーロー、どっちがいい?」

「ええ……キャベツが主かピーマンが主かでしょ?」

「他もなにからなにまで違うけど」

「じゃあ、チンジャオロースで」

母は笑顔で「かしこまり」と頷き、ダイニングチェアの背もたれに掛かっていたエプロンを身につけながら台所へ向かった。

「ところでさお母さん」

「なあに?」

「お父さんの帰りってなんでまだ遅いの?」

「なんか会社内がわちゃわちゃしてるらしいよ?」

「ふうん……。度々そんなことがあるけどなにがそんなにわちゃつくんだか」

「気になるの?」

「まあ……まったく気にならないと言えばピンクくらいの嘘になる」

「そこは真っ赤であってあげなよ。気になるなら今度見学にでも行けば?」

「絶対上の人に怒られるじゃん。へたをすれば不法侵入にでもなるんじゃないの?」

母の笑い声に混ざり、やがて野菜を切る音が聞こえてきた。