「ところでさ、お母さんには長年の疑問ってある?」
わたしは母の前にグラスを置き、言った。
「長年の疑問?」
「わたしは、喫茶 なつしろの象徴みたいなのが気球であることだったんだけど……」
「ああ、そういう感じね。なら、わたしはダジャレを一番始めに言ったのは誰なのかなってことかな」
「ああ、そう……」
返すべき言葉など見つからなかった。
この問いで唯一わかったのは、高本くんが日頃、わたしや母とはまるで違うことを考えているということだ。
「あのさ……。その人の個性ってどこまでのことを言うと思う?」
わたしが言うと、母は困ったように眉をひそめた。
「その人の、個性。それって、具体的にというか……どこまでのことだと思う? お母さんは」
「個性でしょ? そんなの、誰かが決められるものじゃないでしょう。本人が自分にしかないと思っているものや部分、かつ気に入っているそれを言うんじゃない?」
「ああ……」
珍しく母がまともなことを言ったなと思った。
あの雑学集にでも載っていたのだろうか。



