その瞳に写る頃


「俺は、普通がいいんだ」

「普通?」

「親が店を経営してるとか、そんなイメージはいらない。せめて、それくらいは普通がいい」

「……せめて?」

わたしは気になった部分を復唱した。

高本くんはなにかに気づいたように目を逸らす。

「ごめん、美澄さんに言うようなことじゃないよね。中庭へ行こう」

中庭へ向かい歩き出す彼の背を、「待って」と呼び止める。

こちらを振り向くその顔に、これといった表情はなかった。

「せめてってなに? ごめんね、わたし知りたがりなんだ」

高本くんは小さく笑った。

「わかった。ではいつか話すよ、いつか。俺に、その勇気が出たらね」

さあ行こうと歩みを再開させる彼についていく。

「今回はどんな感じにしようか」

「ああ……」

わたしには一つ写真に残したい自分の姿があった。

「どんな感じでもいいの?」

「うん。あまり難しいのだと時間が掛かっちゃうけど」

「時間はいくらでも。じゃあさ、リクエストしてもいい?」

高本くんは中庭へ続く扉を開け、わたしを中に入れると静かにわたしを見た。