門扉の前で深呼吸していると、「あのう」と控えめな声が聞こえた。
声の主は高本くんだった。
黒とチャコールグレーでストライプが成された光沢のあるシャツに黒のスキニーパンツという出で立ちだ。
「ああ、美澄さんか」と彼は表情をやわらげる。
「今、母に命じられて回覧板を回してきたところなんだ」
さあ入ってと門扉を開ける彼に従い、「おじゃまします」と中へ入る。
それに反応するように音を響かせたししおどしへ軽く頭を下げる。
「ところで、回覧板ってどこまで持っていくの? この辺り家なんて見当たらないけど……」
「あっちに少し行ったところ」
「ああ、喫茶店の方?」
「ああ……うん」
「喫茶店、さっきお客さん入ってたよ」
「そうか」と一言で頷き、門扉を閉める高本くんの表情は、いささか暗いものに見えた。
「……高本くんはさ、なつしろあまり好きじゃないの?」
「えっ、どうして?」
「いや、その……なつしろの話をしてるとき、なんか変わるから」
「そうか」
俺は、と彼が呟いた直後、隣でししおどしが音を響かせた。



