着替えを済ませ、宿題を確認しているところを夕飯ができたと母に呼ばれた。

宿題はどの教科もまったく手を付けていないわけではないが、いずれも回答が書かれていたのは全体の五分の一程度だった。

一週間のうちに現在進んでいる程度を全教科こなせば夏休み終了までに間に合うか間に合わないかくらいである。

「相変わらず夏休みは忙しいぜ」

階段を下りながら、今年の夏休みは旅行へ行くと言っていたショウゾウのことを思い出した。

旅行を全力で楽しむと語っていた彼女は今、いかなる方法であの多量の課題を片付けているのだろうか。


「いやあ、それにしても。高本くんだっけ? 本当に絵うまいよね」

食卓に着き、水を一口飲んでから母は言った。

「もう本当にすごいよ。描くのも早いの」

さっきのもう一回見せてと言われ、画面に高本くんの絵を表示した携帯を渡す。

「なんでこんなふうに描けるんだろう。裏ではそういう世界で活躍してるのかな?」

「それはないと思うよ。前に、将来は画家にでもなるのって言ったことがあるんだけど、俺は趣味程度に描ければいいんだって言われた」

コロッケを頬張り、中身の熱さに耐えながら、母の差し出す携帯を受け取った。

「でも彼、色は塗らないんだね」

「ああ、うん」

わたしは水の入ったグラスを半分程度空けた。

「口の中やけどしたかと思った」と呟くと、「口内は修復早いから大丈夫だよ」と母は笑った。

「色は、塗るとやり直しがきかなくなるから嫌なんだって。でもまあ鉛筆画っていうのもあるし、そもそも高本くんにとってはあくまで絵は趣味なんだし、自由でいいんじゃないかなとも思う」

「ああ鉛筆画かあ……」

「なんで残念そうなのよ」

わたしは笑いながら言った。

「いや。そういうのがなければ、高本くんの絵はもっとすごいことになりそうだなって思って。鉛筆で写真を作る少年、みたいな」

「それだと高本くんの絵じゃなくて高本くんが評価されてるし。しかも高本くんは絵の世界でプロになろうとか考えてないし」

ああそうか、と母は笑った。

「人の話はちゃんと聴く。小さい頃よく言われたけど、今じゃお母さんの方が守れてないよ?」

言ったあとに二つ目のコロッケを頬張ると、「わたしは人の話を聞かないけどさくらは学習しないね」と言われた。

ろくでもない親子だと思った。