玄関の前でポケットから鍵を取り出すのに手こずっていると、必要最低限の駐車スペースに母の濃い青色の車が入ってきた。

「おかえり。おしゃれな格好しちゃって、彼氏のところ?」

母は車から降りるやいなやからかうように言った。

鍵を持つ手に虫のように払われ数歩下がる。

「だから彼氏じゃないってば。ああそう、今日ね、ついに終わったの」

「宿題が?」

「まさか。高本くんがわたしを描き終えたの」

「へえ。やっぱりうまい?」

母は自分が先に玄関へ入ると、今度は「蚊が入るから早く」と手招いた。

さっきは邪魔者扱いしたくせにと呟きながら中へ入る。

手に持っていた携帯を操作し、高本くんの絵を画面に表示する。

「ほら、こんなふうに描いてくれたの」

母は画面に顔を近づけ、「実物よりかわいくなってる」と笑った。

「お母さんのそういうところ、本当にお父さんそっくりだよね。しれっとけなすの」

「長い歳月をともに過ごすと言動も似てくるものですよ」

言いながら脱衣場へ向かう母の背に、わたしは鼻筋にしわを作り、口を横に広げた。

「イーッだ」

「イイダじゃありません、美澄です」

「うるさい、今夜はコーンクリームコロッケにしてちょうだい」

「言われなくてもその予定だった」

遠くから聞こえた母の声に、「本当?」と返す。

「お母さん大好き」