語り終えた高本くんはふうと息を吐いた。

「話してる方も頭痛くなるやつだね」と笑う。

「えっ、ていうか、なんで高本くんはそんなに『喫茶 なつしろ』について詳しいの?」

「俺もその会議に出席してたんだ」

「本当に?」

半ば叫ぶように言うと、高本くんは「いやいや」と笑った。

「まあ『喫茶 なつしろ』の名前が決まる瞬間に立ち会ったのは本当だけど、会議って言うほどのものじゃないよ」

「えっ、でも『喫茶 なつしろ』といえば、今やあちこちにあるような喫茶店じゃない。まあ高そう過ぎて我が家の人間で入店した者は誰一人としていないけど」

そんな恥ずかしい話はいいんだ、とわたしは額を掻いた。

「高本くんはなんでそんな、ある意味歴史的瞬間に立ち会えたの?」

「さっきのやり取り、向かいの部屋で行われたから」

高本くんは少し恥ずかしそうに言った。

「はっ? ちょっと待って。さっきのやり取りっていうのは、『喫茶 なつしろ』が開店する前に行われたっていう解釈でいいんだよね?」

「うん」と頷く彼は、やはりなぜか恥ずかしげだ。

「もうちょっと待って。じゃあ、『喫茶 なつしろ』を創造したのは高本くんのご家族ということでいいのかな?」

高本くんは静かに頷いた。

「えっ、ちなみにそれは……?」

「父」

「社長令息?」

わたしは再度叫んだ。

「ある意味というか、広い意味ではというか……」

「やっぱり高本くんすごい人か」

「いや、俺はすごくないよ。ただ親父のコーヒー愛がすごいだけ」

「そんなことないでしょう。あまり会社とかよくわからないけど、高本くんだっていつか社長になったりするんでしょ?」

「いや、俺は継がないよ」

高本くんは静かに否定した。