高本くんのスケッチブックにわたしが描かれるようになったのは、彼の「美澄さんを描いてもいいかな」という言葉がきっかけだった。
登下校時にする会話を重ねていくうちに縮んでいた距離が招いた結果だ。
高本くんに描かれることを拒む理由などわたしにはなかった。
スケッチブックに残るだけで、友達と呼べる人間が一人増えるのだ。
それも以前から一方的に興味を抱いていた相手である。
絵を描く高本くんは輝いていた。
わたしを退屈させぬようにと気を使っているのか、わたしを描く彼はよく喋った。
その際頻繁に見られる笑顔を、わたしは密かに気に入っている。
指先を妙な感覚が襲い、目をやればトンボが止まっていた。
もうそんな季節かと思いつつ指先を微かに動かせば、トンボは驚いたように飛んでいった。
ここ数年、一年が半分近く終わった頃になると、なにもできずに一年が終わると感じることが多かったが、今年は少し違った。
友人という友人が一人増えるというのは、この年齢になると非常に大きな出来事だ。



