時折響く風鈴の音がわたしたちの静寂を心地よく包む。

「高本くんってさ、普段家ではなにしてるの?」

「絵を描いてるか、寝てるか……くらいかな」

高本くんは手を動かしたまま答えた。

「そうなんだ」

「美澄さんはなにしてるの?」

「家ででしょ? だとねえ……携帯いじってるかテレビ観てるか、音楽聴いてるか。携帯いじってるのが一番多いかな」

「へえ。音楽はどういうの聴くの?」

「わたしは……本当にいろいろ。最近は、二十年近く前にデビューしたロックバンドとか、わたしが生まれた頃にデビューした人の曲をよく聴いてる。

あと、どんな曲があるのかも知らない人の世界を覗いて鳥肌立てたり。で、それをきっかけにその人にハマるの。

そしてふと思い出したように、好きであるのが当たり前っていうような人たちを聴いてその人たちに戻る、みたいな。高本くんは?」

「俺は器楽」

「ああ、楽器だけのやつ」

英語ではインシツメンタルだと思っていたが、それを誰にも知られることなくインストゥルメンタルと覚えられたのが当時中学校一年生であったわたしにとって人生で最大の幸せであった。

「楽器はなにが好きなの?」

「ギターとかピアノ。弦楽器だね」

「ああ、ギターねえ」

わたしも好きだな、と続けたあと、高本くんがわたしを呼んだ。

「ちょっと、笑って」

わたしは笑顔を浮かべて指示に応じた。

「おお、いいね。しばらくそのままでいて」