彼がちょっと待っててと残し家の中へ入ってから、スケッチブックとペンケース、ビニール袋を持って戻ってくるのは早かった。
さすがは十五年以上この家に住んでいる者だと思った。
この建物と違い、彼の動きには無駄がないのだろう。
高本くんは縁側にスケッチブックとペンケースを放った。
「これ、よかったら」
優しい声とともに、五百ミリリットルのスポーツドリンクが差し出される。
わたしはそれを礼を言って受け取った。
「安いときに箱買いしておくんだ」
「高本家も意外と庶民的なことするね」
「庶民だから」と高本くんは笑う。
「我が家で金かかってるの、この建物くらいだよ」
言いながら、高本くんはスケッチブックを開いた。
わたしはひまわりのそばへ行き、前回と同じ体勢をとった。
花へ手を伸ばし、高本くんの方へ顔を向けるというものだ。
「こんな感じだっけ?」
「うん。腕、疲れたらおろしてていいよ」
「大丈夫。ずっと同じ体勢でいるのは小さい頃から得意だから」
そうかと笑うと、高本くんは少し後ろへ下がり、ペンケースから鉛筆を取り出した。



