「高本」と力強く刻まれた木製の表札を抱える豪邸へは、もう何度か訪れている。
父親が作ったという表札は、聞くまでそうとは思わなかった。
呼び鈴のボタンを押すと、少しして「はい」と高本くんの声が聞こえた。
「美澄です」と名乗ると「はい、ただいま」と聞こえ、少しの静寂のあとに遠くの玄関が開く音が微かに聞こえた。
ややあって木製の門扉が開けられる。
高本くんは光沢のある白いシャツにジーンズという姿だった。
「おつかれさま」
「どうも」
高本くんは「いつもごめんね」と言って数歩下がった。
わたしがおじゃましますと庭に入ると、彼は静かに門扉を閉めた。
「わたしはほら、ただいるだけだから」
高本くんは「ありがとう」と静かに微笑んだ。
玄関へ向かい歩き始める彼に置いて行かれぬようにとわたしも歩き出す。



