「最近はそんなこともないけどね」

「へええ。描くスピードが上がったのかな?」

「そうなのかもしれないね。特にそう感じたことはないけど」

「そうなんだ。あまり時間とか気にしない感じ?」

むしろなにも気にしない感じ、と高本くんは笑った。

「ああそうだ。昨日見せてもらったスケッチブックに、年と季節のあとに一枚、空以外のものも描かれてたじゃない? あれってそれぞれどこの景色なの?」

「ああ。春は少し遠くの風葉(かざは)公園、梅雨は近くの第二公園。あとの夏、秋、冬はうちの庭だよ」

落ち着いた声で並べられた言葉を理解するには二秒ほど掛かった。

「……庭?」

驚きを処理できないままに発した声は微かなものだった。

「えっ、庭ってあれだよね、家の敷地内で、建物のない場所だよね?」

高本くんは小さく笑い、「そうだよ」と頷いた。

「ちょっと待って、もう一回見せてもらってもいい? スケッチブック」

「いいよ見なくて。恥ずかしい」

「わたしの記憶が正しければ、どれもすごい大きい植物だったけど……」

どんな家に住んでいるのだ、と思った。

わたしの記憶が正しければ、夏にはたくさんのひまわり、秋にはもみじ、冬にはつばきの絵が描かれていた。

もみじもつばきも大きな木であると記憶している。

それに加えたくさんのひまわりがあるとは、高本家の庭はとてつもなく広いことになる。

本当に前夜の煮物やコンビニの焼き魚を食べるような人なのだろうか、と不安のようなものを感じた。