放課後、先に土手に着いたのは高本くんだった。
おばちゃん特製デザートの入手を巡った昼休みの乱に敗れたタケモリを攻撃している間に時が過ぎたのだ。
絵を描く高本くんに接触するのに、こちらから声を掛ける必要はなかった。
わたしの気配を察したか、高本くんの方がこちらを振り向いた。
「美澄さん」
「今日も描いてるんだね」
まあそれだけ上手なら描いてて楽しいよねと言いながら、わたしは高本くんの隣に腰を下ろした。
「自分の絵がうまいと思ったことはないけど、楽しいのは確かだよ。空って、毎日違うから。毎日どころか、少し時間が経てば変わるくらいだし」
「なるほどね。でも、描いてるうちに空の感じ変わっちゃったりしない?」
「前はよくあったよ」
高本くんの落ち着いた声に笑いが含まれた。
「あれ、そういえば描き始めた頃と雲の位置変わってね? みたいな」
意外と普通な人なのだなと思い笑うと、高本くんも笑った。



