教室には、男子生徒が二人だけいた。
高本くんと同じ列の一番後ろの席の生徒と、その通路を挟んだ隣の席の生徒だ。
高本くんと同じ列の方は携帯の画面に夢中になっており、もう一人の方は寝ている。
寝ている方の男は成績が非常に優秀であることで有名だ。
このクラスで頭のいい人物といえば、となった際に真っ先に名前が出てくるような生徒だ。
彼は外見も悪くなく、ほとんどの分野で中の下を貫くわたしにとっては、この学校にいる限り憧れの存在である。
高本くんは手早く荷物を片付けると、すぐに鉛筆を握った。
教室ではなにを描いているのだろうと考えていると、「はあ眠い」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返った先にはタケモリがいた。
「おお、美澄。早いじゃねえか」
「タケモリこそ」
「タケノモリ、ちっと早く目が覚めちまってな」
「お前もかよ」
「なんだ、美澄も?」
「まあ……うん」
タケモリは「そうか」と頷くと、なぜかわたしの隣の席に着いた。
「なに、タケモリのくせにわたしの隣に居座るつもり?」
「くせにとは美澄さん、悲しい言葉を使うねえ」
「そういえばタケモリ、あんたはなにで来てるの?」
「チャリ。まあくるだけじゃなく帰るのもそうだけどな」
「なんかむっかつくわあ」
今日もおばちゃん特製デザート買ってきなさいよと続けると、タケモリは「俺かわいそう」と下唇を突き出した。



