翌朝、わたしは普段よりかなり早く家を出た。

偶然を装い、高本くんに会うためだ。


通学路を半分ほど走った頃、高本くんと思しき人物を見つけた。

彼を探す際に頼りにするのは雰囲気だ。

高本くんは平均よりいささか華奢な印象だが、身長、体型、髪型のどれにもこれといった特徴はない。

しかし彼には、言葉では表し難い雰囲気――ショウゾウ曰く彼氏にはしない方がいいやつオーラがある。

わたしにはそれが魅力として受け取れるため、特徴はないがどこか惹かれる人物がいたなら、その人物が高本くんとなる。


ある程度呼吸を整えたところで走りを再開し、高本くんの背を叩いた。

「おはよう」

「ああ、おはよう。早いね」

「なんか、いつもより早く目が覚めちゃって」

へへっと笑ってみせると、高本くんはそうかと一言で頷いた。

「今日、朝なに食べた?」

「えっ?」

「朝食。わたしはマーガリントーストとコーヒー牛乳。普通の牛乳が飲みたかったんだけど、コーヒー牛乳の期限が近くてさ」

「ああ、そうなんだ。俺は……焼き魚と煮物、味噌汁、白米」

「へええ、和食かあ。ていうか、朝からしっかり作られてるね」

「煮物は昨日の夕飯の残り、魚はコンビニ」

「ほお。庶民的なご家庭で安心した。なんかすごいところのおぼっちゃまなんかじゃ、こんな馴れ馴れしく接してたらまずいからね」

「そんなすごい人がこの辺に住んでるのかな」

「わからないよ? こういう田舎寄りなところも悪くないよねえとか言ってさ。

もしかしちゃったら、別荘が本当の家みたいになっちゃってるとか。

それで子供の進学とかそういったなにかを機に本当の家に戻る、みたいな」

「画力なら百分の九十くらいわけるから、俺は美澄さんのその想像力がほしいよ」

「ああ、想像力ねえ。ちっちゃい頃からなんとかごっこが大好きだったから、咄嗟に物語を考えるのは確かに比較的得意かもしれない」

羨ましい限りだと言う高本くんにそっちこそと笑い返す。