「絵、どんなの描いてるの?」
言ってみた直後、スケッチブックの縁を握る彼の手に力が込められたように見えた。
「いや……大したものじゃないよ」
「そうなの?」
わたしは辺りを見渡した。
「ここから見えるものってこと? じゃあ、空とか?」
高本くんはなにも言わずに目を逸らした。
「ごめんわたし、何度か見てるんだ、高本くんの絵。すごく綺麗な絵だなと思ってて」
見てもいいかな、と続けると、高本くんはふうと息を吐いた。
「見たことがあるならわかるだろうけど、人様に見せられるほどのものじゃないよ、こんなもの」
「わたしはそうは思わなかったな」
高本くんは小さく笑い、「去年のだ。好きにして」とスケッチブックを差し出した。
「いいの?」
「こうしなくては終わらないでしょう。好きなだけ見たらいいよ」
美澄さんは本当に人と接するのが好きなんだねと言う高本くんへ、大好きだよと頷いた。



