最初はあとをつけていることが気づかれないようにと考え意図的に置いていた距離だったが、次第に自然と広がっていった。

彼の歩みが速いのかこちらの歩みが遅いのか、高本くんに接近できたのは結局彼が定位置に座ってからだった。

ちらちらと同じ制服を着た人が歩く中、わたしは高本くんを含めた周りの人に怪しまれぬよう、空に向けて携帯を構えた。

幸い、レンズの先に広がる空はかなり綺麗なものだった。

水色の空を桃色の雲が飾っている。

少しの間画面越しに空を眺め、携帯をしまった。

空は好きだがカメラは得意でない。


周りに人がいなくなったことを確認し、わたしは静かに高本くんへ近づいた。

背後にしゃがみ、絵を描く彼の目元を覆う。

「後ろの正面だあれ?」

静かに言った。

「その声は……」

ていうかと挟み、「こんなことするのは……」と呟く高本くんの声に笑いがこぼれる。

「美澄さん……しかいない」

「大正解、よくわかったね」

お隣失礼しますよ、と勝手に隣へ腰を下ろすと、高本くんは静かにスケッチブックをわたしの反対側へ置いた。