退屈を払拭してくれたのは放課後の楽しみだった。
絵描き少年と呼んでいた高本くんに会うこと、そして彼と話をすることが、すっかり退屈を忘れさせていた。
姿を見たい、近づきたい、あわよくば話もしたい――。
恋愛中の女子にも似た気持ちなのではないかとすら思うほどだ。
校門が目前に迫ってきた頃、雲の厚い空の下、人混みの中に大振りなパスケースを指に巻きつけたり解いたりを繰り返す少女を見つけた。
狙撃手美澄としてのわたしのターゲットである。
わたしは母にすすめられて鞄に入れた折りたたみ傘を取り出した。
なにかを察知したかのようにこちらを振り向いたショウゾウに向けて柄の部分を伸ばした折りたたみ傘を構えると、彼女はわたしが狙いを定めている間に、以前わたしが隠れた方へ逃げた。
「この勝負はいただいたわ」と呟くと、近くからいくつかの視線を感じた。
わたしはそれを振り払うように、折りたたみ傘の柄の部分を戻しながら走り出した。
周りの人間にすみませんと繰り返しながら辿り着いた壁の裏に、ショウゾウの姿はなかった。
折りたたみ傘を握る両手を伸ばし、辺りを見回す。
近くに植えられている木の方を向いた直後、その陰からショウゾウが姿を現した。
折りたたみ傘をこちらへ向ける。
桜色地にいくつか動物の絵が描かれた袋に入ったかわいらしいそれが、彼女の拳銃だ。



