リビングに入ると、ダイニングテーブルに茶碗が置かれており、バターの匂いがした。
昨夜、就寝前にバターの卵かけご飯が食べたいと伝えておいたのを思い出す。
「お母さん素敵。バター溶かしといてくれたのね」
「なかなか起きてこないからね。溶けるまで待っていたら、家を出るのは一時限目の授業が始まる頃でしょう」
「カッチーン……」
「早くしないと遅刻するよ」
洗い物をしながらの母の言葉に特になにも返さず、わたしは席に着いていただきますと手を合わせた。
テレビの中では、男性受けのよさそうな見慣れた女性が天気を伝えていた。
彼女によると、午前中はずっと雨が降るらしい。
食事を始めてから、どこかでは午後まで長引くこともあると聞こえた。
テレビへ目をやったが、地域ごとの天気をまとめた表のようなものは消えており、女性の笑顔がアップで映っていた。
「お母さん、午後ってこの辺も降るの?」
「その場合もあるって」
台所の母は、細かい縞模様のマグカップに熱湯を注いでいた。
ふうん、と返事を返しながら、わたしは放課後の土手の様子を考えた。
高本くんが絵を描くかが不安になったのだ。



