その瞳に写る頃


「そうだ、お母さん」

「ん?」

「お母さんって、二人だと思ってた人物が同じ人だったっていう経験ある?」

わたしの問いに、母は茶碗をテーブルに置き、小さく唸った。

「例えば、エーさんとビーさんだと思ってたけど、実際はどちらもエーさんだった、みたいなこと?」

「そうそう」

「なにその不気味な話。ないよ、そんな奇妙な体験」

反対にさくらはあるのかと問われ、わたしはあるよと即座に頷いた。

「通学路に土手があるじゃない? 帰り道そこに、必ずと言っていいほどの高確率で絵を描く男の子がいるの。

で、わたしはその子のことが気になってたのね。それで、同時にクラスにいる男の子のことも気になってたの。そうしたら、その二人が――」

「同一人物だったと」

母はわたしの言葉を遮った。

「そう。もう驚いたよ」

「面白い話じゃん」

言いながら、母は箸までもテーブルに置いた。