家へ帰ると、扉の開いたリビングの中から微かに母の鼻歌が聞こえた。
聞いたことのあるそのメロディは、わたしの記憶が正しければ、昭和の歌姫の一人である女性歌手の代表曲だ。
「ただいま」と中へ入ると、なにかを揚げる音に紛れ、唐揚げがどうのこうのとの歌が聞こえてきた。
名曲に変な歌詞をつけるなと思ったが、気づけば曲もまるで知らないものになっていた。
「今日は唐揚げ?」
台所に向かって言うと、「おかえり」のあとに「そうだよ」と返ってきた。
「昨日食べたかったみたいだからねえ」
「ありがたやあ、ありがたやあ」
大袈裟に母を拝み、着替えて参りますと残してリビングを出た。



