その瞳に写る頃


父が三冊目の「みているせかい〜すてきなせかい」へ手を伸ばしたとき、わたしは咳払いをした。

母が、わたしが言葉を並べている間に入れてくれたスポーツドリンクを一口飲む。


「ある日、“はりねずみくん”が言った。

僕は色がわからないんだ、こあらくんも、君をさらに美しく見せる背景も、みんな同じ色なんだ――。

“こあらくん”は、“はりねずみくん”の描く絵こそ、彼の見ている世界なのだとわかった。

過去の自らの言動を悔いた。

“はりねずみくん”が絵に色を塗らない理由を知らなくてはならないことなどなかったのだと。

“はりねずみくん”は、自身の見ている景色と周りの皆が見ている景色が違うと知ってから、何度も自身の視界のことで苦しんできた。

皆が楽しそうに見ているもの、皆が楽しそうにしている場所にあるもの、そして、周りにいる皆。

どれも同じような色に見えているが、実際はこうではないのだろうと想像して。

また、視界のことを知った者が今までと接し方を変えて。

“はりねずみくん”は続けた。

これからも僕と一緒にいてくれる?――。

“こあらくん”は迷わず頷いた。

彼に、それを拒む理由などなかった。

“はりねずみくん”がどんな世界を見ていようと、彼が今までともに過ごしてきた“はりねずみくん”であることに変わりはないのだから」