少しの静寂のあと、「じゃあ」と言う高本くんの声と、「あとさ」と言うわたしの声が重なった。 「先、いいよ」 彼の言葉に、わたしは「ううん、大丈夫」と首を振った。 「そうか。じゃあ……また」 「ん?」 「俺、そろそろ帰る」 「あっ、ああ……なるほど」 またねと手を振ると、高本くんは静かに頷き、鞄を手に軽快に立ち上がっては、わたしが歩いてきた方へ歩いていった。 やはり言っておけばよかっただろうかという後悔にも似た気持ちを、「また」という次の可能性を感じさせるような言葉でもみ消した。