自由帳を見ていると、制作中の日々をありありと思い出せた。


少しの残業のあと、父は「傘が仕事をしない」と帰宅した。

ダイニングチェアに腰掛けて聞いたその言葉にどんな使い方をしたのだと思っていると、

トイレから出てきた母が廊下で「おかえり」と声を掛けた。

二人の話し声が遠くなったあと、部屋着に着替えた父が数分でリビングへ来た。

「おかえり」とわたしから声を掛けると、彼は「ただいま」と優しく答えた。

「ご飯、まだだからさ」

わたしが言うと、父は言葉の続きを察したように、少し悪いような笑みを浮かべた。

わたしも似たような表情を浮かべているだろう。

「わたしと親愛なる友人による最高傑作に溺れていただけませんか?」

「言うじゃないか」

「当の然さ。これで採用がいただけなければ、わたしたちは絵本の出版を諦めるわ」

「では、こちらも真剣に見よう」

父は言いながら、わたしの向かい側の席に着いた。

やはり今まではまともに見ていなかったのかと腹を立てる自分が出てきたが、深呼吸をして胸中から追い出した。