「それよりだよ」
わたしは言いながら、一度手を叩いた。
「主人公の特技の話。忘れてたでしょう」
「いやいや、まさか」
美澄さんが覚えてたんだから、と高本くんは笑った。
「俺、立ち上がった瞬間に目的忘れたりしないし」
「うるさい」
わたしは食い気味に返した。
「で、それよりどうする? 特技。このまま囲碁にしちゃう?」
「俺は絵だけだし、なんでも構わないけど。美澄さん、あまり知らない競技だと書きづらくない?」
「ああ、そうか。今回背伸びしてる感出さないようにするんだしね」
「どうしようか。詳しく書ければ背伸びしてるっぽくならないよね」
高本くんは自身の唇から手を離し、言った。
「そう……かな?」
「なら、ダーツとかいかが?」
「ダーツ……。ダーツってあれだよね、吹き矢の手でやる版みたいなの」
「そんな斬新な例え初めて聞いたけど」と笑ってから、彼は頷いた。
「あれなら、うちの母が一時期やってたことがあるんだ」
「えっ、なにそのウォーターウーマンの意外な過去」
「なんか、かっこいい男の人と出逢えそうだからってやってたらしい」
「なるほど。で、そこで出逢えたのがお父様――と」
「そう思う?」
高本くんはこちらの好奇心を掻き立てる口調で言った。
「違うの?」
「どうだろうね」と彼は、またもこちらの好奇心を掻き立てるように眉を上げ、笑顔を浮かべた。
高本くんの母親があの“ヒデさん”とダーツで出逢ったのだと仮定すると、彼の経歴はあまりに華やかなものになる。
いつかから四十代半ばまでダーツをやり、その後はダーツをやりながら得たコーヒーや紅茶の知識を活かして喫茶店を経営、その喫茶店というのも、今となってはテレビの取材が来るほどの店――。
真似はできないが同じように生きたいと思える経歴だ。



