「美澄(みすみ)さんか」
少年の低音が続けた言葉にどきりとする。
「……知ってるの、わたしのこと?」
自分に人差し指を向けて尋ねると、少年は「ええ」と頷いた。
「二年二組、ですよね」
「はい……。えっ、なんで知ってるの? あなたは誰?」
少年は優しい笑みを浮かべた。
「俺、同じクラスの高本です」
高本 秀です、と落ち着いた声に続けられては、どきりとする上に胸が騒いだ。
好きな芸能人に会えた場合もこんな感覚なのだろうかと思う。
「高本 秀……君が高本 秀?」
半ば叫ぶように確認すると、高本 秀は若干の戸惑いを見せつつ「はい」と頷いた。
「ええと……美澄 さくらさんでいいんですよね?」
「そうだよ。えっ、なんでわたしのこと知ってるの?」
「教室で、いつも明るいので。今日なんか特に」
「あっ、ああ……。まあ、ね」
隣に座っていいかと尋ねると、高本 秀は慌てたようにスケッチブックを閉じ、いいよと返事した。
おじゃまします、と彼の隣へ腰を下ろす。



