彼は今日もそこにいた。

通学路の途中にある土手で毎日絵を描くその少年を、わたしは密かに「絵描き少年」と呼んでいる。

言葉を交わしたことさえないが、わたしは彼のことが気になっていた。

黒いスーツのような制服と学校指定の学生鞄から、彼が同じ学校の生徒であることはわかっている。

しかしネクタイの色が確認できず、彼の学年はわからずにいる。

顔もよくわかっていない。


わたしが彼を気にする理由は、彼の描く絵にある。

彼の絵は何枚も見てきているが、まるで写真のようなそれに決して色が塗られないのだ。

その理由が知りたく、声を掛けようとはするものの、どうも勇気が出ず行動に移すことはできずにいる。

いきなり声を掛け、危険人物だと認識されることが恐ろしいのだ。

それに、彼がもしも年上であったらという不安もあった。

わたしは現在二年生、彼が後輩である可能性、同級生である可能性、先輩である可能性、どれもある。


ふと、彼がペンケースの中を覗いた。

わたしはなんとも言えない不安のようなものを感じた。

ペンケースを鞄に入れた記憶がないのだ。

慌てて鞄の中を確認すれば、予感が当たったことを喜ぶべきか、ペンケースは入っていなかった。

サンキュー絵描き少年、と心の中で叫び、わたしは来た道を走った。

幸い、通学路はまだ半分も歩いていない。