昇降口をくぐる直前、右方に高本くんの姿を見つけた。
こちらから名前を呼べば、彼はすぐに気づいた。
「美澄さん」
「おはよう。早速絵本のことなんだけどさ」
「ああ。なんだか嫌な予感がするのは俺だけ?」
「そうだね、嫌な予感がしてるのは高本くんだけだね。ああでも……。ちなみに、高本くんの言う嫌な予感というのは、『ジェムのあしあと』がとある男に敗北したという話かい?」
高本くんはため息に似た息を吐いた。
「大正解」
「新しい話を書かなくてはならなくなった。現実世界でありふれまくった号泣必至の共感しかできないような話をね」
「絶対無理でしょう」と高本くんは苦笑した。
「無理じゃない。世の中にはあの男を黙らせている人間が多数存在する。その中にわたしたちが紛れ込むだけだ」
それが難しいんじゃないかという高本くんの言葉を、わたしは当然のように無視した。



