「お父さんはなにゆえ毎日森林出版社へ行っていると思う?」

「……はあ?」

返した声は、腹の中の苛立ちのようなものを素直に表していた。

「仕事――じゃないの?」

そうだ、と父は静かに頷いた。

「こちらにとって書籍の出版は仕事なんだ。目に入ったものを出していればいいというものではない。

俺たちは書籍の出版によって利益を得ている。天の神様の言う通りといった具合で選んで売れなくては困るんだ」

「……つまり、『ジェムのあしあと』は売れないと? 出すことによって森林出版社に損失が生まれると?」

「言い方はきつくなるけどな」と、彼はわたしの言葉を否定しなかった。

「人一人の将来が懸かったあの話のなにがだめなの? 内容? 文章の書き方?

まさか、まだ物語の生まれ方についてなにか言うつもりじゃあないでしょうね」

「さっきも言った通り、こちらにとって書籍の出版は仕事なんだ。高校生の小遣い稼ぎに付き合ってはいられないんだ」

「作者の年齢だっていうの? 制作者が高校生であれば、どこぞの絵本作家よりも優れた話を作っても売らないって?」

「そうは言ってないさ。しかし、さくらたちの作ったあの話は、やはり高校生の想像から生まれたものに見えてしまうんだ」

「現実味に欠ける話だと? 幼児虐待も動物虐待も、このご時世ありふれてるでしょう」

「では。まず一つ質問しよう」

「なんなりとお申し付けくださいませ」

わたしはねっとりした口調で返した。