その瞳に写る頃


「この絵を描いた人物は、この絵が世に広まることを望んでいるのか?」

父は質問を繰り返した。

「さくらとともに絵本を作らんでも、自身の絵を世に広めたいのであればその人物は勝手にその道へ行く。

もしもこの絵を描いた人物に自身の絵を世に広めたいなどという気持ちが微塵もなかった場合、この絵本を出版することはなににもならない」

「……読者にとっては?」

わたしは微かな声で返した。

ようやく見つけた言葉だった。

「この物語を知った読者がなにかを感じるかもしれないという可能性まで、否定できるの?」

「意味を持たない物語はなにも与えられない」

「……意味?」

「さくらが友人とともに制作したというこの物語は、意味を持っていない。

物語は、読者になにかを与えたい、読者にこういうことについて考えてほしいという制作者の希望のもと生まれる。

さくらが友人とともに作ったこの物語には、それがない。この物語が抱えているのは、さくらの文章に添えられた絵を世に広めたいという、さくらの勝手な願いだけだ」

「制作者の希望――物語にそれがあればいいのね?」

わたしは小さな声で言った。

「ああ、そうだ」

これまでと比べて少しばかり優しく聞こえた父の声に、太ももの上に置いている拳にさらに力が入った。

上等じゃねえか――聞こえない声で吐くと、腹の中に強い対抗心でできた煙が上がるような感覚を覚えた。