コーンクリームコロッケをおかずに二杯の白米を平らげた後、父親へ二冊の自由帳を差し出したのは、わたしが文を書き終えてからわずか二か月後のことだった。
「話ってなんだい?」と言う父へ「これを見てほしいの」と返すと、彼は自由帳へ目を落とした。
「これは?」
「自由帳。中身は二冊とも絵本」
「絵本……」
いまいち理解ができていないような彼へ、「これを本にして、発売してほしい」と要望を付け加えた。
「森林出版から」
わたしはさらに続けた。
父は困ったようにわたしを見たあと、わたしが「こっちが先」と示した方の自由帳をゆっくりとした動作で手に取った。
飛ばし飛ばし内容に目を通しすと、二冊目も同じようにした。
「どう? わたしと親愛なる友人が作ったもの。
親の虐待により施設で過ごすこととなった主人公と、
似た過去をきっかけに主人公と同じ施設で過ごすこととなった、後の主人公の友人、
また、主人公が施設を出たあとに出逢った瞳の綺麗な子犬の物語。
主人公の“りょうすけ”は、十八歳で施設を出た後、一匹の子犬に出逢う。
自身と似たものを感じ、彼――“りょうすけ”はその犬を育てることにする。
“りょうすけ”は、子犬の綺麗な瞳から彼に“ジェム”という名を与えた。宝石、宝石のように美しいものという意味。
しかし“りょうすけ”は、“ジェム”という家族を得てから程なくして仕事関係でストレスを溜める。
それを察した“ジェム”は、大好きな“りょうすけ”の笑顔を取り戻すべく、彼が安価で手に入れた小さな家を飛び出し、“りょうすけ”の笑顔の種を探す旅に出る。
しかしその季節は冬。降り出した雨はやがて雪へと変わった。その頃にも“ジェム”は“りょうすけ”の笑顔を取り戻せそうなものを見つけられずにいた。
彼はそれを見つけるまでは帰らないつもりだった。
彼は“りょうすけ”の笑顔の種を探しているうちに、家から随分と離れた場所へきてしまっていた。
幼い“ジェム”に、雨や雪が繰り返し降った、家までの長い道を正確に辿るなどということは非常に困難なことであった。
帰り道がわからずにいた“ジェム”が迷い込んだのは、偶然にも“りょうすけ”が施設にいた頃に得た友人、“けんと”の家の庭だった。
“けんと”に見つけられた直後にその場へ倒れた“ジェム”を、“けんと”は大切に温める――。
絵にしか描かれてないけど、“ジェム”はその後、ミルクを飲めるまでに回復している」
「なにがしたい」
ダイニングテーブルへ自由帳を放ると、父は珍しく説教じみた声を発した。
「さっき言った通り。この話――『ジェムのあしあと』を本にして、森林出版より発売してほしいの。それ以上も以下もない」



