「俺、美澄さんに救われたと思ってるから」
「こっちには救った記憶はないけど……人助けができたならよかった」
「少し前までは、他人に絵を見せるなんてとてもできなかった。色を塗らない理由を訊かれるから」
ふと、過去の自らの言動が蘇った。
視線を足元へ逃がす。
「その問いに素直に答えれば、俺は普通の人間ではなくなる。途端に、周りとは違う世界に生きる憐れな人間になる。
美澄さんと仲よくなった頃も、美澄さんを描くのは楽しかったけど、常にそのことがちらついてた。
やり直しがきかなくなるのが嫌だとごまかしたが、もしもそれが嘘だと見抜かれていたら。事実を話さなければならないときが来たら。
そうなれば、美澄さんは普通の友達ではなくなる。それが怖かった。俺はずっと、普通の友達が欲しかったから。
だけど――」
それは余計な心配だった、と彼は自嘲するように笑った。
「美澄さんは、今まで周りにいた人が皆妙な距離を作った、この色のことを知っても、それまで通りに接してくれた。
今もだけど、絵がうまいって言ってくれたの、すごく嬉しかった。どこかで絵には自信があったのかもしれないけど、そのほとんどを色のことで忘れてたから」
高本くんはどこか弱さを感じさせながら、小さく笑った。
「俺は、美澄さんに救われた。美澄さんのおかげで、日増しに夢が大きくなってる。
だから、今度は俺が美澄さんの力になりたい」
夕日のせいか儚げに見える彼の滲んだ笑顔に、わたしは思い切り茶化すように言った。
「じゃあ、早速作り話考えるぞ」



