その瞳に写る頃


「天は二物を与えず、とは誰が言い出したのだろうか。

高瀬 秀美は自動販売機で一番安いミネラルウォーターを購入し、がたがたと落ちてきたそれを取り出した。

無意識のうちにため息をついた……」

言葉を続ける前に、わたしは「だめだ」と首を振った。

高本くんの方を振り返る。

「なんか、優れたところがない人の逆転劇みたいなのを描こうと思ったんだけど、どう逆転していくよ、みたいな。

異性と出逢って恋しちゃって――とかじゃ結構あちこちで見るかなとか思ったり?」

「まあまあ」

ゆっくり考えたらいいじゃないかとでも言いたげに彼は苦笑した。

ふと、なにかを思い出したように「あっ」と控えめに声を上げた。

「じゃあさ、さっきの話とうまく合わせてみたら?

特別に優れたところはないけど、なんとか事務職員として働いている……タカセ ヒデミって人が主人公で、彼女は自身の現状に不満を抱いている。

それを、たまの休日に海の近くにある喫茶店でコーヒーを飲みながら海を眺め、押し殺す――みたいな。そしてたまには喫茶店の店主に愚痴を聞いてもらう、みたいな」

「ああ、それならちょっと文字数稼ぎやすくなったかな?」

「わからないけど……。で、特別に優れた部分のない彼女の復活劇が、喫茶店の店主の何気ない一言から始まる――みたいなのはいかが?」

「おお……。恋も仕事もまともにできない残念系オフィスレディの復活劇ね?」

「恋も仕事もできないとは聞いてなかったけど、設定は多いほうが面白いかもね」

「おう。ちょっと真面目に考えてみるよ」

「頑張れ」と高本くんは純粋な笑みを浮かべた。