「その喫茶店は、海のすぐ近くにある。
高瀬 秀美(たかせ ひでみ)は、今となってはその店の常連客だ。
彼女は店を経営する竹本 (たけもと)――通称ヒデさんの珈琲を飲みながら、窓際の席で海を眺めるのが好きだった」
わたしは風に髪の毛を揺らされながら、思いついた文章を並べた。
登場人物の名前は皆、高本くんとその父、ショウゾウ、タケモリ、わたしから取った。
「ねえ、どう?」
言いながら振り返った。
「どう……とおっしゃいますと?」
高本くんは手を動かしたまま言った。
「小説。海の近くにある喫茶店の店主と、なんの特徴もないオフィスレディの物語。
彼女は休日に必ずその店に行って、ストレスを解消してるの。時々店主に愚痴を聞いてもらったりしてもいいね」
「俺は好きな雰囲気の話だけど……それだけで何万字も書ける? 新人賞なんかに応募するってなったら、それくらいの字数ないとあれじゃない?」
「ああ……そうか」
「一瞬でも飽きられたらだめだよ、たぶん」
「まじですか……。新人賞、子供相手に厳しいね」
「いや、どこも子供からエントリーが来るとは思ってないんじゃないかな、わかんないけど」
「ああ……」
そうか、とわたしは苦笑した。



