その瞳に写る頃


沈黙が流れ始めた頃、わたしは左手首の腕時計を確認した。

針は十時近い時間を示していた。三十分近く歩いたことを表している。

白を基調とした中、文字盤に緑色や若緑色の四つ葉のクローバーがあしらわれたその腕時計は、中学生の頃に一目惚れして購入したものだ。

数日前にふと存在を思い出し、部屋を漁ったところ、引き出しに丁寧にしまわれていた。

いつの間にか役目を終えていた電池は、父に新しいものへ交換してもらった。


「あのさ」

わたしは言った。

「はい」

「その……今向かってる、南公園? というのは……なにがある場所なの? 二時間半くらい歩くらしいけど」

「真ん中にはすごい大きい噴水、少し離れた場所には落ち着いた空間」

「ふうん……。えっ、じゃあ噴水を描きに行くの?」

「いやあ、でも静かな場所で花を描くっていうのもいいなあ、みたいな」

「へえ、花が咲いてるの?」

「うん。ブーゲンビリア」

「ブーゲンビリアかあ。高本くん実際に見たことある?」

「ううん」と高本くんは首を振った。

「ブーゲンビリア……」

わたしはポケットから携帯を取り出した。

ブーゲンビリアとあう名前は聞いたことがあったが、どんな花かは知らなかった。

わたしは花の名前で検索をかけ、画像を表示した。

「ああ、これか。この、花っぽいところが実は葉っぱなんですうってやつね」

「あっ、それブーゲンビリアか。花に見える部分が葉っぱって、なにかあったなと最近思ってたんだけど」

「おお、すごいタイミング。これから生ビリアだよ」

ビリア、と高本くんは笑いながら繰り返した。