「そういえばさ」

わたしは言った。

「世界征服って、世界で一番偉い人になるって感じのことだよね?」

「ああ……うん」

「それってさ、実際にやっちゃった人っているのかな? つい最近でも、大昔でも」

「どうなんだろうね」

「高本くん知らない?」

「俺は地理も歴史も好きじゃないから……」

そうか、とわたしは一言で返した。

小説をそばに置き、小さく咳払いをする。

「ええ、ただいまより携帯探しゲームを開催いたします」

「え?」

「ズボンのポケットは四つあります。そのうちの一つに、わたしは外出前、携帯電話を入れました。さて、その一つはどこでしょうか。選択肢一、左前。選択肢二、右前。選択肢――」

わかったわかった、と高本くんはわたしの言葉を遮った。

「じゃあ、右前か右後ろ」

「さて、根拠は」

「美澄さん右利きでしょう? 右手で操作した携帯をわざわざ左手に持ち替えてポケットに入れるとは……」

「わたしがポケットにしまう直前まで携帯電話を操作していたかどうかはわかりませんよ?」

「ああ……」

高本くんは小さく唸った。

「でも、咄嗟に目の前のものを取るとき、右手を使わない?」

「ええ、では高本くんの回答は、右前もしくは右後ろのポケットということでよろしいでしょうか?」

「……はい」

「では、答え合わせといきましょう。まずは、高本くんの回答の一つである右前のポケットから確認します」

わたしは言ったあと、右前のポケットに手を突っ込んだ。

「うーん、残念。右前ではありませんでした。続いて、右後ろのポケットを確認します」

わたしは言ったあと、横になったまま尻を上げ、右後ろのポケットに手を突っ込んだ。

「……ありませんねえ。じゃあ左前?」

わたしは尻を上げたまま左前のポケット、続いて左後ろのポケットを確認した。

「……ええと、美澄さん? 正解は……?」

「えっとねえ……。ちょっと待ってね」

わたしは尻を下ろし、上体を起こした。

辺りを見回す。

「ええと、美澄さん?」

携帯を見つけたとき、わたしは思わず「あっ」と声を上げた。

「ええ、では結果発表をいたします」

「ああ、よろしくお願いします」

「正解は――」

わたしは少しの溜めのあと、「わたくしが貴方へ与えた選択肢の中にはございませんでした」と続けた。

「えっ、では……」

「なんか、後ろの方にほっぽってありました」

わたしは「はいどっこいしょ」と己の体に声を掛けて立ち上がり、少し離れた位置にあった携帯を拾った。

「こちらに」と高本くんへ苦笑すると、彼も苦笑した。