「あっ、そうだ」

高本くんが声を上げた。

「本を読むのが向いてないなら、先に実行に移しちゃえば?」

「……というと?」

「普通に物語を考えて、それを文字にするの。繰り返していけば結構上達しそうじゃない?」

「なるほどねえ……。じゃあもしもそれをやるってなったら、まずは話を考えないといけないよね、作り話」

「いや、作り話と言うとなんか台無しだけど……まあそうだね、物語考えないと始まらないね」

わたしは斜め上辺りへ視線を向け、唸った。

「あっ。じゃあ、ひたすら警察の捜査の手から逃げる連続駄菓子万引き犯の物語」

「おお……。なんか、その犯人の事情が明かされた瞬間に泣かされそう」

「いや……笑えるような雰囲気で作るつもりだったんだけど。……じゃあ、とめどない己の物欲を満たすため、様々なものを開発する女の物語」

「……なんか、書くの難しそう」

「じゃあ……お店に並んだ果物たちの気持ちを描いた笑って泣ける友情物語」

「……うまくいけば線香花火程度にうけそう、一歩間違えればダダすべりそう」

わたしは高本くんと目を合わせたまま数秒間静止したあと、読書を再開した。

「真面目に物語考えるところまで行ったら俺も手伝うよ」

「そんなことをしようものなら、君は小説家美澄さくらが死ぬまでそいつに付き添うことになるぞ」

「別に構わないよ。人のためになるのは、前から嫌いではないんだ」

うるせえいいやつ、と返すと、小さく苦笑が聞こえた。