常に聞こえる蝉の声、定期的に聞こえるししおどしの音、気まぐれに聞こえる風鈴の音を背景音楽に、わたしは畳に仰向けに寝転び、小説を読んでいた。

「あーあ、もう夏休みも終わりかあ……。惜しいわあ……」

ため息をつくと、縁側から「まあまあ」と優しい声が聞こえた。

高本くんのものだ。

「残りの夏休み楽しもうよ」

「どう楽しめって言うのさ。これであれだぜよ、夏休みが明けたらもう、ごりごりの就職アンド進学モード襲来だぜよ?」

高本くんは苦笑した。

「ていうか。お主はいやに楽観的じゃが、卒業後はどうするつもりなのじゃ?」

「特に決めてないけど……。でも一つ、やってみようかなと思ってることはある」

「へええ。なに?」

「いいよ、恥ずかしい」

「恥ずかしいことなどあるかい。夢は大きい方がいいんだから」

「まあ……。いや、でもいいよ。俺には大き過ぎる」

「高本くんでさえ大き過ぎるような夢ってなに? 超有名大学の名誉教授になりたいとか?」

「いや、それはもはや俺からすれば世界征服並みの大きさ。俺のこれは……そうだな、自転車で日本縦断くらいの大きさかな」

「ふうん……。自転車で日本縦断くらいの夢かあ、なんだろう? あ、本当に自転車で日本縦断とか?」

「いや……その、俺のことはいいじゃない。それより、お勉強の方はいかが?」

彼はわたしの手にある文庫本を指で示した。

「ああ……。なんかねえ、わたしねえ、自分にねえ、読書はねえ、向いてない気がするのお」

少しの静寂のあと、わたしはため息をついた。

左手を本から離し、本を持ったままの右手を横へ放った。

小説家希望者として勉強しようと先日購入した小説は、読みやすい文章を書くと言われている作家の代表作だが、本を読むという習慣のないわたしはそれでさえ読んでいて疲れた。