家の駐車スペースには、まだ母の車は停まっていなかった。

わたしはため息をつき、ポケットから取り出した鍵を扉の穴へ突っ込み、時計回りにまわした。

なくさないようにと付けてある小さな紫色の鈴でできたぶどうのストラップが音を鳴らしながら揺れる。

鍵穴から鍵を抜く前に服の裾と髪の毛を絞った。

頭を激しく振り、何度か飛び跳ねてから、鍵を抜いて玄関内へ入った。

玄関の扉と鍵を閉めると、そこで服を脱いだ。

この状態で家の中へ上がれば、証拠を隠滅する前に母が帰宅してしまう。

脱いだ衣服を抱え、わたしは洗面所へ走った。

ずぶ濡れの衣服を洗濯機へ投げ入れ、タオルで軽く体を拭く。

髪の毛を拭きながら、ふと鏡へ目をやった。

幸せと不幸は同じだけ訪れる、という言葉が頭をよぎった。

「……確かに、さっき楽しかったもんね」

静寂の中にこぼし、「その仕打ちがこれか」と苦笑を続けた。