その瞳に写る頃


ショウゾウが笑って間もなく、タケモリがばたばたと走ってきた。

息を弾ませる彼は、左手首にビニール袋を下げている。

大きさは、五百ミリリットルのペットボトルが二本から三本入る程度だった。


「あらタケモリ。なに買ってきたの?」

ショウゾウの問いに、タケモリは「タケノモリだ、松竹梅の竹に森林の森と書いてタケノモリと読む」と訂正した後、「『おばちゃん特製デザート』だ」と自慢げに答えた。

ばちくそ腹立つんですけれども、とわたしは小さく本音を放った。

「お前ら、いるか?」

「え?」

ショウゾウが声を出すより、わたしが振り返る方が早かった。

「これ、いるか?」

「えっ、なにタケモリ、くれるの?」

「タケノモリだが、別にいいぞ」

むしろお前らのために買ってきた、と言いながら、タケモリはわたしの机へ袋を置いた。

「普段の倍の値段したんだぜ?」

「普段の倍買ったからでしょ」

ショウゾウの言葉に、彼は「おう」と苦笑する。

「ていうかタケモリ」

わたしが言うと、タケモリはしれっと自身の後ろを確認した。

最後にわたしを見ては、頭の上に疑問符を浮かべる。

タケモリなんてやつはいないぞ、とでも言いたげな顔だ。

「タケノモリ」

「ああ、俺か。なんだ」

「これって、一人一個までとか決まってないの?」

「決まってるぜ?」

「どうやって買ったの?」

「おばちゃんに、『ああ、大丈夫大丈夫』って言って」

「は?」

ショウゾウが言った。

タケモリは苦笑する。

「『ああ大丈夫、ちゃんと二つのデザートで二人の人が喜ぶから』って。

その後はもう、大丈夫を繰り返して、さっとデザート取ってそっと金置いて。

周りからは嫉妬の目を向けられつつ、すっとその場から姿を消し、せっせと廊下を走ってきたわけ」

タケモリは、「さっとそっとしっとすっとせっせと」と一人で楽しそうに指を折った。

「じゃ。まじでうまいから。激ハマり注意な」

もしも本気でハマっちまったらまた買ってきてやるよ、と残し、タケモリは自席へ向かった。