その瞳に写る頃


高本くんの描くわたしが完成し、それを携帯に残したあと、スピーカーと生け花のある和室で高本くんと二人寝転がるのがわたしは好きだった。

「高本くんの小人の絵、わたしすごい好き」

「おやおや、それはどうも」

「あれ、微妙に物語っぽくなってるんだね」

「ああ、そうそう。よく気づいたね」

「まあね、妄想は得意なもので」

わたしは自慢するように言った。

「小人の美少女と人間の少女の友情物語のほんのワンシーン、みたいな?」

「おお、すごい。らしくもないけど、そんな雰囲気で描いてた」

「なんかもうね、一本の短編アニメでも観たかのような満足感だった」

「なんか、そんなこと言われると……調子に乗りそう」

「嘘つき」

わたしは瞬時に返した。

「高本くんそういうタイプじゃないもん」

「人間、意外な裏の顔をはらんでたりするものだよ?」

「いや、それでも高本くんは違う。ひたすら上を目指すタイプ」

「……俺、そんなに真面目に見える?」

「少なくともわたしにはね。執事なんかも似合いそうな」

「いや無理。俺、記憶力ないから。

雇い主みたいな人のいろんなものの好みとか相手のスケジュール、

それに合わせた自分のスケジュールとか、そんな膨大な情報絶対覚えられない。三歩歩いたら忘れる」

「あ、でもその記憶力なさすぎる問題わかる。

わたしなんてもうね、例えばトイレにでも行こうとして立ち上がったとするじゃない?

そうしたら、立ち上がった頃にはもう直前までトイレに行こうとしてたことを忘れてるから」

「ああ、目的があって別の部屋に移動したけど、その目的を忘れちゃってるみたいなやつのひどい版って感じ?」

「あっ、これひどいやつ?」

ひどいよ、と高本くんは笑った。

「だって目的があって立ち上がったのにその立ち上がった理由を忘れちゃうんでしょう?」

さすがに俺でもないんだもんそりゃあひどいよと、彼は心底楽しそうに笑った。