不思議だとも感じたが、それ以上に素敵な世界観だなと思いながら残りのページをめくった。
最初のページに戻った頃、高本くんが口を開いた。
「郷に入っては郷に従え――。美澄さんはどう思う?」
彼の声に、特別に重たい響きはなかった。
「郷に入っては……ああ。あれだよね、どっかの世界に入ったらもともとその世界にいた人たちに従いなさいよ的な雰囲気の言葉だったよね?」
「そうそう」
「ああ……。だったら、自由奔放とか不羈奔放とかって言葉の方が好きかな。周りに合わせるというのは――もちろん大切である場面もあるけどね、できることならしたくないからさ」
「そうか。いや、俺もその言葉あまり好きじゃないんだ」
「うん、なんとなくわかるよ」
高本くんは苦笑した。
「でも俺、郷に入っては郷に従えって、座右の銘みたいな感じにしてるんだ」
「え、好きでもない言葉を?」
「ちょっと、らしくもないけどよく考えてみたんだ。
郷に入っては郷に従え――。ある場所に入ったら、ある程度そこの風潮とか習慣に合わせなきゃいけない。
ならばよ。そもそも郷に入らなければその郷に従う必要ないんじゃねって思ったんだ」
「おお……。なるほど、よく考えたね」
「なんかさ、嫌いなものって、すべてじゃないけどどうにかして印象変えたいなって思わない?」
「思わないかな。嫌いなものは嫌いだもん。それ以上もそれ以下もない」
「……そうか」
美澄さんらしいや、と高本くんは笑った。



