その瞳に写る頃


心地よく感じてきた静寂を楽しんでいたところ、知り合いではなさそうな二人の女性が入ってきた。

わたしと高本くんはそれをきっかけに店を出た。

高本くんの父親には、店を出る直前に「またいらしてください」と言われた。

わたしは「はい、また」と笑顔で頷いたあと、財布に余裕があるときにと聞こえない声で続けた。


店を出ると、高本くんと同時に目の前に手をやった。

「あの中、結構暗かったんだね」

慣れって恐ろしい、と高本くんは笑った。

「いや、夏の太陽が明るすぎるんじゃない? どれだけ外にいても慣れないし」

「まあ、だいぶ暗いところからすごい明るい場所に出たら、まあ……ね」

「こうなるのも普通かね」

わたしたちは笑いながら手をおろした。


「これからどうする?」

高本くんは言った。

「今何時?」

携帯と財布だけが入った小ぶりなショルダーバッグのチャックを開けている間に、「だいたい一時二十分」と返ってきた。

確認超絶早い、と言いながらわたしはショルダーバッグのチャックを閉める。

「なにかしたいこと、他にある? 行きたい場所とか」

「いやあ、もう特にないかな」

少し考えを巡らせたあと、わたしは「あっ」と声を上げた。

「じゃあ、今度は高本くんのしたいことしようよ。なにかないの?」

「それ言ったら、うちに行くことになるけど……」

「別に構わないよ」

「一昨日の続きを描きたいんだ」

「ああ、なるほど」

高本くんのことを知ったあの日、あのあと続きを描きたい旨を事実として言われたが、泣いた直後の顔を残されるのはごめんだと断ったのだった。