その瞳に写る頃


「あれ以外にもお店用の絵は描いたんだよね?」

わたしは右方の絵を見ながら言った。

うん、と高本くんの声が返ってくる。

「それはどこにあるの?」

わたしは高本くんへ視線を戻した。

「他の店舗じゃないかな。理由は直接言われることはなかったけど、本店にあったら他の店舗にもあるべきでしょ、みたいな雰囲気をもやもや醸し出しながら描けって言われてたから」

「へええ。えっ、どんなの描いたの?」

「要望に応じて、いろいろと。花とか葉っぱとか、他には都会の街並み――みたいな。

こんな自然豊かな場所で生まれ育ったんだから都会の街並みとかわかんないしって思ってたら写真出てきたのを覚えてる。ならそれ飾れよと思ったのも覚えてる」

わたしは素直に噴き出した。

「非礼に当たったら謝るけどさ、高本くんって意外と明るい人だよね」

「えっ、ああ……そう?」

それはどうも、と彼は会釈した。

「いやあ、なんか去年ただ学校で眺めてた頃は、ただひたすらに変わってるだけの人だと思ってたから。ほら、ずっと一人でいたから。だけど実際はそんなにずっと一人ってわけでもなかったんだね」

「そうだね。家にはくせの強い両親がいるから」

「お母さんはどんな方なの?」

「なんかねえ……」

本当に変わった人、と高本くんは苦笑した。

「なんだろうなあ……。一言で言うなら……やたら明るくて、なんかすっとぼけてて、ミネラルウォーターが好きな人」

「おお……」

結構な強者だなと思った。

「ミネラルウォーターが好きなの?」

「なんか、水が好きらしい。飲料水。自称、市販のミネラルウォーターをキケル女」

「キケル?」

「利き茶とか利き酒みたいな感じで」

「ああ、なるほど。その実力の程は?」

「わからない。実際に結果を持ってるのかもわからないし」

わたしは少し笑ったあと、残りのマスカットティーを飲み干した。

「なんか、高本家って楽しそうだね」

決して楽しかないよと笑う高本くんへ、ぜひとも高本家のリアルな日常を覗いてみたいよと返した。